求道等の思うこと

アクセスカウンタ

zoom RSS 読書録(3) 「出星前夜」(飯嶋和一)

<<   作成日時 : 2009/03/12 14:01   >>

ナイス ブログ気持玉 1 / トラックバック 0 / コメント 2

この本の存在を私は朝日新聞の第35回大佛次郎賞の選評を読んで知った。特に審査員の井上ひさし氏が高く評価していたのを覚えている。早速(08年12月)図書館に申し込んだのだが、多くの順番待ちがあって、最近やっと読むことが出来た。評判に違わずいい作品だった。

私は以前から「島原の乱」には関心を持っていた。6年前雲仙に旅行した時、島原に回って島原城を見学した。城内の資料展示を興味深く観ていたが、連れがいたので不完全燃焼になっていた。それでもそのあわただしい中で村ごとの蜂起人員とその割合などを控えてきた。その後、中公新書で出た『島原の乱』(神田千里著2005年10月発行)などを読んでみたが、その全体像は私の中では明確になっていなかった。この本は小説であるとはいえ私の要求を満たしてくれた。6年前行くことが出来なかった原城跡や天草の方へは是非いずれ行きたいと思う。

さて、この作品は後世に残る歴史小説になると思う。資料の丹念な読み込み、綿密な調査。それに裏付けられた落ち着いた筆運び。映画にしたいと思うような構成。そしてなによりも私はこの作家の認識の広さと深さを感じた。中東戦争をはじめとする国際紛争をも視野に入れた人間の生の実相。その陽と陰、賢と愚、美と醜が、作者がどこまで意図しているかにかかわらず作品の中から立ち現れてくるのを私は感じた。

複数主人公とも謂うべき「寿安」と有会村の「甚右衛門」、それぞれの人間性と生き方。作品は主人公にある、といえばまさに作家はここにある。後半、その「寿安」が明国から来た僧医活林に診てもらった時、活林が寿安の持っていた砂時計を見ながら、「時計の中の落ちきった砂は、動くことはありません。過去は、この動かずに下にたまった砂と同じ。こうしてひっくり返せばまた新たな時を刻んでいく。時計の下に溜まった砂は、嵩が深ければ深いほど長い時を刻める。砂が落ちる速さはけっして変わらない。(以下略)」と言うところがある。ここに私は作者の歴史観、人間観を見た。

この作品を通して「島原の乱」を見るとき、その様相が清の末期、日本で謂えば明治維新の直前に起こった、「太平天国」に似ていると思った。民の窮乏とキリスト教の関係。中心となったジェロニモ四郎と洪秀全。きびしい戒律と内部崩壊。そして政府軍への外国軍の助勢。この事件に対する興味はまだまだ尽きない。

最後に残念な現状を一つ。公共の本に書き込むマナーの悪さ。幸い鉛筆だったから救われたものの、直しの書き込みを入れている。それも作者の意図が分からず間違った直しをしている。最悪である。私はそのため再々現実に引き戻されてしまった。この人はこの本を読んでどんな感想を持つのだろうか。


テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ
気持玉数 : 1
ナイス

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
『出星前夜』の寡作な作家は、城とは名ばかりの原城址に籠るキリシタン蜂起に追い込まれた老若男女の農民や帰農武士たちの無念さを胸に抱いて、万感の想いを込めた「糞侍」(ぶさ)という言葉の飛礫(つぶて)を対峙した徳川幕府の諸藩連合軍に投げつける。
虐げられた者に注がれる著者の眼差しが、他人(ひと)を生かす道に目覚めた主人公寿安の地道な救済医生活に温かく染み通ってゆくかのようだ。ブログ氏の「後世に残る歴史小説」との評価は、飯嶋和一ファンの首肯するところだ。
本書で脇役に登場する長崎代官末次平左衛門(二代目平蔵)の破天荒な活躍は前作『黄金旅風』で大いに楽しめる。読者には併読をお薦めする。
永遠のチャレンジャー
2009/03/29 14:56
「永遠のチャレンジャー」様、コメントありがとうございます。
私は飯嶋和一氏の作品を読んだのは初めてでしたが、あなた方のような根強いファンがおられることは頼もしいことでもあるし、うなずけることでもあります。浮ついた世相の中にあっても、地に足をつけてしっかりとした仕事をする作家がいることと、それを理解し支える読者がいることは心強く喜ばしいことです。私も物書きの端くれとしてもう一度奮起しなければという思いを強くしました。
gudou
2009/03/29 23:05

コメントする help

ニックネーム
本 文
読書録(3) 「出星前夜」(飯嶋和一) 求道等の思うこと/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる